Note

長崎市の傾斜移動モビリティ

2020年7月にJUDI通信の取材で、龍谷大学の服部圭郎先生、関西大学の岡絵理子先生とともに長崎市にお邪魔した。知人でもあった長崎市景観専門監の高尾忠志さん(九州大学特任准教授)にお願いして、長崎市の景観の見どころ、各プロジェクトの概要をご説明いただき、それに加え、”ブラタモリ”なみの市役所担当の方々による現地でのレクチャーを受けた。とても素晴らしかった。それに長崎の都市デザインも素晴らしかった。まだ、新幹線新駅舎や埋立地周辺の大部分はまだこれからであったが、江戸時代から稀有な歴史を持ち、南蛮・外国人街が色濃く残る街並み、様々な重層性に刻まれた都市空間が滲み出る街だった。とても良い取材になった。感謝!

以下は、その取材から長崎市特有の斜面移動装置に着目して、JUDI通信に寄稿した記事です。

 

JUDI通信2020年冬号(No.18)【都市デザイン・プロジェクト100選】

Selected PROJECTS 018 長崎市の斜面移動モビリティ

長崎市は、2021年に「長崎開港450年」を迎え、「次の時代の長崎の基盤づくり」に向け静かに活気づいている。「陸の玄関口」となる長崎駅周辺では、2022年の新駅舎完成・新幹線開業、2023年の東口駅前広場完成、2025年の新駅ビル開業と立て続けにビックプロジェクトが続き、市内の交通体系や地域経済を一変させる様相となっている。市街地外縁部に目を向けると、明治以降から後背にある急峻な斜面を延々と開発してきたすり鉢状の特異な都市景観は、香港、モナコと並ぶ世界新三大夜景と呼ばれるまでとなっている。その急峻な斜面を移動するモビリティに、長崎ならではのユニークなデザインを見ることができる。

 

■稲佐山スロープカー

2012年世界新三大夜景都市の認定を受け、夜景スポットである稲佐山山頂展望台への交通渋滞緩和と来訪者増への対応のため、長崎市は中腹駐車場から山頂までの距離510m、高低差84mを移動するスロープカーを2020年1月に整備・開業した。車両デザインは世界的な工業デザイナーのKEN OKUYAMA DESIGN。全面ガラス張りで車体下部と天端は黒に塗られ、稲佐山の美しい自然に溶け込むよう意図されている。山頂への尾根沿いを走る車両からは、西に外洋の五島灘、東に長崎市街地を望み、360度の大パノラマと緩やかなシークエンス景観を体感することができる。定員80名、所要時間8分。

 

■稲佐山ロープウェイ

稲佐山ロープウェイは、市の観光開発の一環で1959年から開業している。2011年に老朽化したゴンドラ2台を360度ガラス張りのデザインにリニューアルし、現在も運行している。デザインはスロープカーと同じくKEN OKUYAMA DESIGN。麓の淵神社に設けられた駅から山頂までの距離1090m、高低差298mを所要時間5分で結ぶ。定員31名。眼下に長崎の中心市街地や斜面開発した密集住宅地、山頂側には緑ゆたかな森林景観を見ることができる。

 

■斜行エレベーター「グラバースカイロード」

市南部の南山手地区には、大浦天主堂やグラバー園をはじめとした歴史観光資源が豊富にあり、また緑ゆたかな文教地区・斜面密集住宅地が広がる。そうした丘陵地に斜行エレベーター「グラバースカイロード」は異彩を放って存在している。小学校への通学路、グラバー園への裏からのアプローチ、上部にある住宅地と麓にある商店街を結ぶ主要ルートとして整備後には大きな需要が見込まれ、そして市電南端の「石橋」電停やバス交通との相乗効果が期待されるとして、2002年に斜行エレベーターは開通した。斜行エレベーターは、全長160m、高低差50m、傾斜31度、時速約5km、定員17名、途中5箇所の乗降場が設置されている。翌2003年には斜行エレベーターの先に垂直エレベーターが整備され、グラバー園へのアクセスが更に良くなっている。運行は6:00〜23:30で、来訪者も無料で利用できる。

 

■斜面移送システム「てんじんくん」

長崎市の7割を占める斜面住宅地では、幅員1〜2m程度の階段道路でしか行けない住宅が多い。特に奥地には高齢者が多く住んでおり、そうした高齢者に安全で快適に斜面の移動ができるよう、市と民間企業が共同開発し、2002年から小型の斜面モビリティを設置している。設置されたのは、天神町、立山地区、水の浦地区の3箇所で、懸垂型のカゴで定員2名を分速15mで斜面を移送するモビリティ。乗車するには専用カードが必要で、来訪者が自由に乗ることはできない。

 

(文責:尾辻信宣)